入賞句・選者のコメントです。 投稿者:箱の番人 投稿日:2022/05/06(Fri) 11:24 No.77 |
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折山正武選 特選 一斉に蛙の合唱母の郷 久しぶりに故郷へお帰りになったのでしょう。帰郷を歓迎するかのように蛙が合唱した。技巧のない自然な詠みぶりに好感を持ちました。句の姿も整っていると思います。
秀逸 降るたびに声のふくらむ蛙かな 面白い捉え方です。蛙が鳴く時に喉がふくらむのを声がふくらむと表現されたのだと思います。雨が降るたびにふくらむ、しかもそのふくらみがひと雨ごとに大きくなっていきそうです。切れ字「かな」も上手く収まっています。
白壁の揺るぐ青柳蔭ほのか 白壁と蔭の句はよくありそうにも思いますが、作者は所謂類想などという観念はなく作られたと思います。たしかに白壁と蔭は印象的ですから、句にしたいという気持ちはよく解かるし、尊重したいと思います。
並選 牛蛙顔がなくなる大欠伸 俳味たっぷりの句です。私はその情景を見たことはありませんが想像して笑えます。如何にもありそうです。口語的表現が味を深めているように思います。拍手。
静かなる白壁の街夏日影 「静かなる」と説明しないで分かる五音の情景描写がないかと思いましたが難しいでしょうか。人通りの少なくなった旧い街並みが想像されます。尚、「夏日影」の影は陽光を謂い所謂物の蔭ではありませんね。「かぐやひめ」の「かぐ」や「輝く」の「かが」も同じ語源です。
星伸予選 特選 青嵐シェークスピアの壁の穴 真夏の夜の夢 「ホール・イン・ザ・ウオール」恋人同士が壁の穴を通してささやきあう。これは二人が結ばれるまでの障害を壁にたとえています。 青嵐は万緑をゆるがして吹きわたる風。「青嵐と万緑」これ以上の恋人同士がいるでしょうか。壁=行き止まり(暗)のイメージが穴という突破口(明) 発想もいいと思いました。
秀逸 荒壁の鏝の返しや青嵐 下塗をした壁に補修なのか仕上げ塗なのか。「鏝の返しや」に熟練された仕事ぶりが 想像出来ました。青嵐の季語が職人の爽快で明るい人柄まで見えてくるようです。
どくだみは母の残り香深庇 ドクダミの葉はハート型で臭いが強く、民間薬の原料として昔から重要とされています。母という存在は困った時には頼ってしまうけれど、普段は少々うっとうしい存在(私個人の感想)この句に惹かれたのはそういうことかもしれません。「母の残り香」は久しぶりに作者が実家戻られたのか、もうそこにお母様がいらっしゃらないのか。深庇が残り香を深めているような気がします。そういえば母の日が近いですね。
並選 夏めくやカンタービレに川の音 「カンタービレ」はクラシック音楽では、イタリア語・発想記号で「歌うように、表情豊かに。」という意味。「夏めくや」の切れがいいと思いました。カンタービレが流れのほど良い強さ、水量、そしてそれを聞いている作者の心情が分かります
雨粒を受けて半眼青蛙 ニホンアマガエルは、雨が降る前に鳴くことがあるそうです。雨粒ということは降り始めでしょうか。上五下五の「雨……」は湿度が感じられ、声に出して気持ちのいい句だと思いました。半眼の蛙の可愛らしさが伝わります。
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